発災直後における避難所の6つの課題を分かりやすく解説。
大規模災害時に必ず必要になるのが、避難所の開設です。
災害を受けやすい日本では、いつ災害が起きても対応できるように備えておく必要があります。
そのため、近年では災害を完全に防ごうとする「防災」ではなく、災害発生を受け入れた上で被害を最小限に留めようとする「減災」という考え方も重要視されています。
その減災の要と言えるのが、避難所です。避難所は、被災者の命を一定期間守り続ける拠点でなければなりません。
避難所の現状と課題について整理し、必要な対策と合わせて詳しく解説します。
コンテンツ
避難所生活は長期化する
避難所の課題を整理する前に、避難所の現状を把握する必要があります。
下のグラフは、復興庁が発表した東日本大震災・阪神・淡路大震災、中越地震の避難所生活者の推移です。縦が避難所生活者の人数、横が発災からの経過時間を表しています。
出典:復興庁「【避難所生活者の推移】東日本大震災、阪神・淡路大震災及び中越地震の比較について」
このグラフから
- 発災直後に急激な避難所生活者数の上昇が見られる
- 最低でも1カ月は避難所生活を続けている避難所生活者がいる
ということが読み取れます。
言い換えれば、
- 発災直後は多くの被災者が避難所に殺到するため、混乱する可能性がある
- 避難所生活は長期化する可能性が高い
とも言えます。そのため避難所の課題と言っても、「発災直後に考えられる課題」と「避難所生活が長期化することによって生まれる課題」の2種類が考えられます。
救助活動の現場では、「災害後の72時間」が勝負だと言われています。72時間を過ぎることで救助隊が救助できる人数が大きく減少することが阪神淡路大震災や東日本大震災の統計から分かっているためです。
内閣府の作成した「地区防災計画」においても72時間というキーワードが大きく取り上げられています。
参考:「地区防災計画」
そのため、特に混乱期とも言える発災直後~数日後の避難所課題に絞って解説します。
混乱期(発災直後~数日後)における避難所の課題とは?
災害の発生直後から数日間は、避難所を運営する職員にとって最も忙しく、ストレスが溜まりやすい期間です。
冒頭のグラフでも挙げた通り、避難所を開設した直後には一度にたくさんの被災者が訪れます。
さらに、昨今では新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、避難所の中でクラスターが発生しないよう徹底した感染対策も必要になります。
想像しただけで限りなく課題が挙げられますが、この期間に見られる避難所では主に以下のような課題が見られるでしょう。
- 断水
- 停電
- 食料・救援物資等が不足
- 場所取り等の避難者同士のトラブル発生
- 避難所運営職員の業務負担が大きい
- 突発的な感染に伴うクラスターの発生
断水
断水とは水道の給水が途絶えることを指します。
災害によって、貯水池・浄水場・配水場が大きな被害を受けると、水を作る・送ることができなくなり、給水が途絶えます。また、これらの水道施設が被害を受けていない場合も、
- 貯水池(水源)から浄水場へと水が送られる導水管
- 浄水場から配水場へと水が送られる送水管
- 配水場から各家庭、施設へと水が送られる配水菅
これらのパイプラインに被害が出ることで、水を送る途中で漏れてしまい、水道が出ないという事態に陥ります。
避難所が断水することで、飲料水がないという基本的な問題の他、水栓トイレが流せず汚物の処理に困る、洗濯やお風呂が制限されるという問題も考えられます。
厚生労働省によれば、東日本大震災では約257万戸、熊本地震では約44万6千戸が断水しました。
また、厚生労働省によると令和2年度時点で基幹管路耐震適合状況は約40.7%、浄水施設の耐震化率は約38.0%、配水池の耐震化率は60.8%と、水道施設の耐震化は十分であるとは言えません。
必要な対策
断水の主な対策としては、
- 井戸を設置する
- 日頃からポリタンク等に水を貯蓄しておく
- 川の水など近くの水源を利用する
- 水を使わない非常用簡易トイレセットを用意しておく
などが挙げられます。
停電
停電とは、電力供給が途絶えることを指します。
停電の場合も断水と同じように、電力供給の元となる発電所や変電所の設備が被害を受ける、電線が切れるなどの原因で、電力供給が止まってしまいます。
日の光がある昼間ならまだしも、夜になるにつれて日の光が落ち、明かりがなくなることで不安や心配が大きくなり、ネガティブな気持ちになります。
それだけでなく、エアコン、石油ファンヒーターや扇風機などの機器も使えなくなるため、暑さ・寒さ対策ができず、熱中症や低体温症などの健康問題に発展する可能性も考えられます。
さらに、現代では多くの人がスマートフォンを保有しています。充電切れでスマートフォンが使えなくなることで、不安やストレスが溜まりやすくなります。
必要な対策
停電時には、
- 蓄電池
- 自家発電
- モバイルバッテリー
などの電力の備蓄があれば、電気が復旧するまでの間なら持ちこたえることができるでしょう。
食料・救援物資等が不足
避難所に食料の備蓄があったとしても、数には限りがあります。それこそ、数十人~数百人規模の避難所になると、いくら備蓄があったとしても各避難者に分ければあっという間になくなってしまいます。
そうなると、空腹に耐えきれず食料を巡った避難者同士のトラブルに発展する可能性や貯蓄分の食料が盗難されるといった問題も起こります。
食料だけでなく、衣類や日用品などの救援物資でも同じことが言えます。
必要な対策
対策としては、避難所の状況をいち早く把握し、災害対策本部に情報共有を行うことが大切です。それにより、災害対策本部でも迅速な支援物資の供給ができるでしょう。
その役目を誰が担うのか、情報共有にどのような手段を用いるのかによって供給される早さも変わります。 例えば、各自治体の避難所運営マニュアルを見てみると、避難者情報や名簿、必要物資の数を紙ベースの用紙で作成することが前提になっています。
引用:東京福祉保健所「避難所利用者登録票」より
紙ベースの管理には、信頼性の高さや保管性といったメリットがありますが、デジタルの管理方法に比べると即時性がありません。
緊急時の迅速な情報共有が求められる局面においてはデメリットの方が強く反映されてしまいます。
具体的には、
- 情報を避難者自身に記入してもらう時間
- 情報を集計して紙にまとめる時間
- 集計した紙を災害本部に共有する時間
が発生し、情報共有の遅延に繋がります。
そのため、避難所運営においては紙ベースの管理方法ではなく、スマートフォンやタブレットを用いてデジタル上で書類を管理することで、より早い情報共有が可能になります。
昨今では、受付にQRコードを用いたシステムを導入する自治体も見られ、避難所のデジタル化が進んでいます。以下は、避難所のデジタル化における一例です。
とはいえ、スマートフォンを保有していない、家に置いてきてしまった、電子機器に馴染みがないという避難者もいる可能性があるため、避難所のデジタル化を進める際も柔軟な発想が大切です。
場所取り等のトラブル発生
避難者にとって、最もストレスになることの1つがプライバシーの問題です。避難所生活では、見ず知らずの他人と一緒に生活することが前提となります。
- 1人当たりに設けられる生活範囲が狭い
- 他人の騒音が気になって落ち着かない
- リラックスできる家とは違い、常に気を遣わなくてはならない
など、避難所生活はストレスの原因になりやすい環境になっています。警戒心の高まりや他人との常識のズレなどが原因となり、トラブルの発展に繋がってしまいます。
必要な対策
避難者同士のトラブルを防ぐ対策としては、
- 仕切りを設けて他人の生活が見えにくいようにする
- トラブルに発展しても、第三者が介入して当事者同士を落ち着かせる
などの対策が必要です。何より、避難所では、避難者自身が「自助(自分自身の安全を守る)」と同時に「共助(地域一体となって助け合う)」の考え方を持つことも重要です。
指定管理職員の負担が大きい
災害直後、避難所は自治体の職員だけが開設するわけではありません。
様々な施設には必ず施設管理者がおり、彼らが避難所の開設を行うことも珍しくありません。自治体職員が到着するまでの間は、施設管理者が最低限の避難所運営を行うことも考えられます。
しかし、施設管理者が必ずしも避難所運営のノウハウを保有しているわけではないため、切迫した状況の中でスムーズな避難所運営が実現できるかは不透明です。
数十人規模の施設なら何とか対応できるかもしれませんが、数百人規模の施設となると少人数で運営を行うことは難しくなります。
また、自治体職員が到着しても、そのまま運営スタッフとして参加させられることもあり、場合によっては自治体職員より業務負担が大きい役割を担うことになりかねません。
【参考】
静岡県公式ホームページ「避難所を考えよう『避難所運営の主役は誰だ?』」
必要な対策
避難所の業務負担を軽減する対策として、
- 事前に施設管理者と自治体職員の役割を明確にしておく
- 誰でも避難所避難所運営をスムーズに行うことが可能になる仕組みを整える
などが挙げられます。
災害が起こってからでは遅いため、災害が起こる前に段取りを決めておくことや、決めた段取りをシミュレートすることも重要です。
とはいえ、災害時の避難所開設は、施設管理者だけでなく「避難所運営委員会」という地域の町内自治会や町内防災組織が中心となって行うことが基本になっています。
自治体職員が到着するまで、または到着してからも避難所運営委員会に所属する住民が避難所運営の主役になるため、防災イベントやセミナーを通じてコミュニケーションを取っておく必要もあるでしょう。
コロナ禍に伴うクラスター発生
新型コロナウィルス拡大に伴って、避難所でも感染対策が必要不可欠になりました。
これからの避難所運営では検温、消毒、スクリーニング(感染者と非感染者のふるいわけ)、避難者同士の距離を保つための誘導、仕切りの設置など、感染対策に係る業務が増えます。
これでは、運営スタッフの業務負担がさらに大きくなり、人手が不足することも考えられます。人手不足により避難所運営の統制が取れないと、十分な感染対策を行えなくなるため感染リスクが高まりクラスター発生の可能性を残してしまいます。
コロナウィルスに限った話ではなく、1~2月の寒く乾燥する時期においてはインフルエンザや結核、ノロウイルスなどの感染拡大も考えられます。 東日本大震災でも、避難所となっていた体育館でインフルエンザがアウトブレイクした事例も報告されています。
必要な対策
徹底した感染対策を行うためには、それだけ人手が必要になります。しかし、災害発生時にはどれだけ事前に役割分担をし、担当者を決めていても、担当者が避難所に来られない可能性もあります。
そのため、
- 避難所運営の担当者だけでなく、住民でも避難所の運営ができる体制を整える
- 運営スタッフの業務負担が減るような仕組みを作る
といった対策を行う必要があります。
住民自身の防災意識は高まりつつあり、災害時の備えや避難経路を確認するなど「自助(自分自身の安全を守る)」の行動が見られています。
しかし、避難所の運営になると「共助」になるため、住民ひとりひとりに意識させることは骨が折れるでしょう。
となると、運営スタッフの業務負担が減るような仕組みづくりも必要になります。
まとめ
発災直後~数日後の混乱期に見られる避難所の課題を整理しました。
避難所1つとっても、様々な課題が浮かび上がってきます。それと同時に運営スタッフが現場で考慮しなければならないことや業務負担がどれだけ複雑で重いことであるかもお分かりいただけたかと思います。
避難所は、行けば安全・安心な場所ではなく、避難者全員で安全・安心な場所を作り上げていく必要があります。 そのため、避難所では職員に任せるだけでなく、避難者自身の協力も大切です。
終わりに
避難所運営スタッフの業務負担を減らすためには、避難所運営のデジタル化を進めるという方法もあります。
株式会社フォルテは、災害時の避難所運営を支援する「避難所運営支援システム」を提案しています。
「避難所運営支援システム」は検温と同時に避難者にQRコード付きの整理券を発券し、避難者自身がタブレットなどを用いて避難者情報を入力することで、避難者の受付をスムーズに実施するシステムです。
このシステムを導入することで、避難所受付に係る業務時間を95%削減することができ、削減した時間を他の業務に回すことが可能です。
避難所受付の簡略化、避難者の体調管理、救援物資の配給などを避難所のデジタル化によってサポートし、避難所運営の業務を効率化することで円滑な運営を実現することが可能です。