防災

車中泊を選ぶ避難者の心理と自治体の対策事例を紹介。

自然災害の増加に加え、新型コロナウィルスの拡大に伴って「分散避難」という言葉が浸透しつつあります。

分散避難とは、災害時に「自宅」や「知人の家」、「宿泊施設」など、避難所以外の安全な場所に移動することを指します。

その分散避難の中に「車中泊」も挙げられています。しかし、車中泊はエコノミークラス症候群という病を発症する危険もあります。

熊本地震の際も、270人中215人の方がエコノミークラス症候群による死亡例を含めた災害関連死に認定されています。

参考:内閣府「災害関連死について

 

車中泊を選ぶ人の心理

なぜリスクがあるにも関わらず、避難所より「車中泊」を選ぶ人がいるのでしょうか。

車中泊の現状

内閣府が熊本地震の被災者を対象に行った調査によれば、自宅被害やインフラ被害がなかった避難者のうち、約6割が「自動車の中」に最も長く避難したと回答しています。

内閣府「熊本地震被災者アンケートの分析結果に基づく熊本地震における住民の避難理由と避難機関」より

車中泊を選ぶ理由

車中泊を選ぶ人の心理にはどのような背景があるのでしょうか。

北九州市立大学の稲月氏の論文では、熊本地震時に「1週間以上車中泊を続けている避難者」を対象とした調査を行っています。

同氏が行った調査によると「避難所ではなく車中避難を選んだ理由」は、

 

・人が多く落ち着かない(32.3%)

・避難所では気を遣う(27.3%)

・建物の中は怖い(10.1%)

・避難所がいっぱいだった(10.1%) 

・他、車だと揺れを感じにくい、自由、すぐに動くことができるなど  (n=99)

稲月 正(2018)「熊本地震における車中避難の選択理由と生活上の困難」西日本社会学会年報,16, p5-22

といった結果が得られています。他人がいる空間ではやはりプライバシーの問題は避けられないのかもしれません。

また、避難所に行っても満員で受け入れてもらえないという問題も見られます。

 

コロナ禍における避難所の信頼性

上記の論文は2016年に起きた熊本地震時の調査ですが、2020年の新型コロナウィルス感染症拡大に伴って「感染するのが怖い」という理由で車中泊を選ぶ人も現時点では多くいるようです。

環境防災総合政策研究機構が行った調査によれば、「新型コロナウィルスへの感染防止対策が行われていれば、避難しますか?」という質問に対して「対策の内容によって判断」と回答した方は約6割います。

環境防災総合政策研究機構「災害時の避難における新型コロナ感染症対策等に関する国民の意識や行動調査 全体集計結果(速報)」より弊社作成

避難所運営の感染対策が注目されています。住民から見て感染リスクがあると判断された避難所には、避難したくても避難できず、車中泊避難を「選ばざるを得ない」という状況が発生しています。

自治体としては、住民が安心できる避難所運営の感染対策を考えなければなりません。

 

避難所の感染対策に関する記事を合わせて読む↓

【記事リンクの埋め込み】

 

車中泊避難によって生まれる課題

避難者が車中泊を選択することで、災害時、以下の4つの課題が想定されます。

  1. 都市圏においては渋滞や事故などの交通障害が予想される
  2. 駐車場所の確保が困難
  3. 避難者の状況把握が困難
  4. 避難者のエコノミークラス症候群等の健康問題への対応

各自治体は、上記に挙げられる課題を想定した対策を立てる必要があります。

特に、車中泊を選んだ避難者の状況を把握するのは難しく、避難者がどこにいるのかが分からないと支援物資を配給したくても出来ません。

【参考】

川崎市「大規模地震における車中泊による避難者への対応について

 

車中泊をさせないためには?

避難者に車中泊をさせない方法はあるのでしょうか?

ここでは、各自治体の車中泊避難に対する対策状況と具体的な対策事例を紹介します。

車中泊避難の対策状況

読売新聞の調査によれば、全131自治体のうち約7割が車中泊を想定して対策を取っていることが分かっています。

車中泊を「させない」のではなく、コロナ禍では避難者も車中泊を活用せざるを得ないことを認めた上で対策を講じている自治体が過半数を占めています。

【参考】

【独自】災害時の車中泊避難、想定して対策7割…131自治体調査 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

車中泊の対応策事例

では、各自治体では具体的にどんな対策を行っているのでしょうか。

各自治体のホームページに添付されている「地域防災計画」から「車中泊」に関する対策が明記されている自治体を調べました。 またホームページ上で車中泊避難の対策を公開している自治体も見られたため、合わせて紹介します。

熊本県

熊本県の「地域防災計画」によると、車中泊を含む避難所外避難者への対応として、

物資の支援や情報提供を行うため、避難先となり得る施設・場所のリストアップや住民自ら避難状況を報告する仕組みづくりなど、避難所外避難者の把握に係る具体的な対策をあらかじめ整理しておく

熊本県「地域防災計画」p.83より

また、避難所外避難者の状況把握のために、自治会・町内会、自主防災組織、消防団、防災士、NPOやボランティア等と連携し、必要に応じて避難所へ誘導すると明示されています。

新潟県

新潟中越地震を経験した新潟県の「地域防災計画」では、自治体だけでなく避難者自身にも連絡責任を持たせることで、車中泊避難者の把握に努める計画を立てています。

避難所外避難者の状況調査を3日以内に行うと定めており、その際、町内会や自主防災組織等の協力を得て把握に努めると明記しています。

また、避難所外避難者に対しても、

  • テント、ユニットハウス等の避難施設の提供
  • 食料、物資等の供給
  • 避難者の健康管理と健康指導

を発災後、3日以内に支援する計画を立てています。

新潟県:「地域防災計画-地域防災計画-災害応急対策-」(p.68)

東京都

東京都は人口が多く交通網も密集しているため、車中泊避難者が増えることによる交通障害リスクが最も高い都市です。

東京都の「地域防災計画」では、都内の車中泊は原則、認めることは困難であると示しています。

その理由として、

  • 東京都震災対策条例により車両での避難を禁止している
  • 人命救助や消火活動のために、警視庁から大規模な交通規制が実施されること
  • 交通規制以外の道路でも、道路上における駐車が被災者支援の妨げになってしまう
  • 都内はオープンスペースが限られている
  • エコノミークラス症候群やその他健康問題に対する適切な対応に課題がある

を挙げています。また、その対策としてホームページやツイッター等を活用して、災害時に車を使わないよう啓発活動に努めるとしています。

東京都「地域防災計画 -本冊第2部-」(p.453)

豊田市

トヨタ自動車株式会社が本社を置く豊田市では、「車中泊避難ハンドブック」を作成しています。

車中泊避難ハンドブックでは、車中泊をする際の心得や手順、必要な事前準備、一時的に駐車できる施設が記されており、住民でも読みやすい内容になっています。

出典:豊田市「車中泊避難ハンドブック

高崎市(群馬県)、岩沼市(宮城県)

高崎市や岩沼市では、車中避難を考える避難者のために、一時的な滞在場所となる駐車場を整理しています。

出典:岩沼市「車中避難を考えている方へ」より

災害時、車中泊をしようと考えても、車を停める場所が分からなければ避難場所を確保できません。

そんな時、ホームページ上に避難先を明記してくれていたら避難者としては助かります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

車中泊の対応は、各自治体で異なっており、東京都のように車中泊自体をさせないように啓発している場合もあれば、車中泊避難者がいる前提で把握や支援に努める計画を立てている自治体も見られました。

自治体の十数件の地域防災計画を調べましたが、そもそも車中泊に対する対応策が明記されていない自治体もあり、自治体によって対策に対する重要度は異なるようです。一住民としては自治体の車中泊避難への対策に期待がかかります。

最後に

車中泊を選ばざるを得ない心理原因として、「避難所での感染対策に対する不安」「避難所に行ったけど満員で受け入れられなかった」という問題を挙げました。

過去の東京都の災害では、1か所の避難所に避難者が集中したことで満員になってしまったというニュースもあります。

反対に避難所の感染対策が万全で、満員になりそうな状況をいち早く避難者に伝えることができれば、避難者を複数の避難所へ分散させることが可能だと言えます。

そのためには、少人数のスタッフでも感染対策をしっかり行った上で避難者を受け入れ、より早く避難者の情報を把握・共有する必要があります。

しかし、現状の避難所運営は紙ベースの名簿作成が前提になっているため、記入や集計に時間がかかってしまうという問題点があります。

これでは、災害対策本部への情報共有が遅れ、避難所の状況を伝えることも必要な支援物資を要求することも遅れてしまいます。

その解決策として、弊社では、災害時の避難所運営を支援する「避難所運営支援システム」を提案しています。

「避難所運営支援システム」は検温と同時に、避難者にQRコード付きの整理券を発券し、避難者自身がタブレットなどを用いて避難者情報を入力することで、避難者の受付をスムーズに実施するシステムです。

このシステムを導入することで、避難所受付に係る業務時間を95%削減することができ、削減した時間を他の業務に回すことが可能になります。

避難所受付の簡略化、避難者の体調管理、救援物資の配給などを避難所のデジタル化によってサポートし、避難所運営の業務を効率化することで円滑な運営を実現することが可能です。

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