防災

自治体におけるDXの課題と4つの具体的な推進ステップを解説。

昨今、企業を中心に「DX(デジタルトランスフォーメーション」が推進されています。

自治体でも新型コロナウィルスの拡大や自然災害の増加に伴い、DXの推進が急務の課題となっています。

しかし、自治体の約8割がDXに「未着手」という調査結果もあります。 ここでは、DXとは何か、なぜ自治体においてDXが推進されているのか、その背景と課題を整理した上で、DX推進のための具体的なステップを紹介します。

 

自治体におけるDXとは?

DXは2004年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。

彼は2004年に発表した論文の中で、

「デジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術が人間の生活のあらゆる側面に影響を与える変化として理解されるものだ。」(弊社訳)と定義しました。

また、同教授は2022年2月に日本の様々な組織の現状に合わせて、株式会社デジタルトランスフォーメーションと共同で、新たに「社会」「公共」「民間」の3つの定義を示しました。

本記事で取り上げる自治体のDXは「公共」にあたります。公共におけるDXの定義は以下の通りです。

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、あらゆる組織や分野でスマートな行政サービスを展開し、革新的な価値創造を支援することができるものである。

また、DXは住民をより安全・安心にし、快適で持続可能な社会へと導くことができるソリューションを生み出すことで、住民の幸せや豊かさ、情熱を実現し、地域やエリアの価値を向上させることを可能にする。

DXは既存の仕組みや手続きへの挑戦、より住民本位の革新的な解決策を協働で考えることを促す。

DXを推進するためには、組織のあり方や文化を革新的、アジャイル、協調的に変革することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導して行うものでありながら、全てのステークホルダーが変革に参加することを求められる。

引用:株式会社デジタルトランスフォーメーション「デジタルトランスフォーメーションの定義

 

自治体におけるDXは単に既存のシステムや業務プロセスをデジタル化すれば良いというわけではありません。

これまで以上に住民の生活を向上させるため、デジタル技術を活用して行政サービスや業務プロセス、組織の在り方に至るまで主体的かつ戦略的に変革する必要があります。

例えば、入り口は電子申請にしたものの内部の業務フローが整備されていないため、結局は紙で決済、職員が再度手入力しなければならないなどの手間が増えただけという失敗パターンも考えられます。

つまり「デジタル技術を使って何を目的にどんなことを実現したいのか?」というビジョンのない戦略はDXとは言えません。目的のないデジタル化は「デジタル技術を使うこと」が目的となってしまうからです。

総務省によれば、自治体のDX推進においてまずは

  • 自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる
  • デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく

ことが求められると示しています。

【参考】

【完全解説】Withコロナで求められる 自治体の「業務効率化」 | ジチタイワークス (jichitai.works)

総務省「自治体トランスフォーメーション(DX)推進計画

 

自治体のDXが推進される背景

それでは、なぜ自治体においてDXが推進されているのでしょうか?自治体のDXが進める背景には、以下の理由が挙げられます。

  1. 労働人口の減少に伴い、自治体の人手不足が見られるため。
  2. 新型コロナウィルスの拡大や自然災害の増加によって、職員の業務範囲が広がったため。
  3. アナログ文化が根付いており、紙ベースの業務プロセスが横行しているため

一つずつ解説していきます。

 

自治体の人手不足

総務省が行った調査によれば、地方公共団体の総職員はピーク時の平成6年に比べて、令和2年時点で16%減少(52万人)しています。

出典:総務省「地方公共団体定員管理調査結果の概要

とはいえ、部門別にみると警察部門・消防部門は増加傾向にあり、一般行政部門でも防災分野はピーク時の約3.3倍、児童相談所は約2.3倍、観光、福祉事務所は約1.7倍に増えています。

その原因として、国土強靭化に向けた防災・減災対策、コロナウィルス感染拡大に伴う体制強化が挙げられています。

 

職員の業務範囲増加

上記の人手不足に伴い、職員の業務量が増加していると言われています。

日本総合研究所の蜂屋氏は「地方公務員一人当たりの人口」「地方公務員一人当たり実質歳出額」「給与月額に対する時間外勤務手当の比率」の3つの指標で、職員の業務量増加を分析しています。

同氏によれば、地方自治体において人手不足感が高まりつつある原因には、

  • 自然災害が各地で相次いだこと
  • 高齢化に伴った給付対象者の増加や子供・子育て対策の充実

によって、社会保障分野を中心とした地方自治体の業務量が多くなっていると示しています。


【参考】

地方公務員は足りているか-地方自治体の人手不足の現状把握と課題 (jri.co.jp)

 

紙ベースの管理などアナログ文化が根付いている

地方自治体では、アナログ的な業務がいまだに続いています。

例えば、地域住民が記入した手書きの書類は、エクセルのソフト等を通じて自治体の職員がひとつひとつ手入力をします。手入力したエクセルデータは間違いのないように二重、三重にチェックされます。

また紙の書類は、同じ種類の書類を分厚いファイルにまとめて、1部屋に一括管理しているという状況です。

このまま紙業務を続けていると、部屋が書類に溢れ、管理が難しくなります。また、手入力やチェックなどの単純作業に時間が取られ、重要度の高い仕事に手が付けられないということもあるでしょう。 こうした現状がある中で、日本では企業を中心に「働き方改革」が進められ、自治体においても労働生産性の向上が求められているのです。


【参考】

“脱・紙文化”から始まる自治体の働き方改革:ワコムのペンタブレットでこれだけ変わる – ITmedia ビジネスオンライン

 

自治体におけるDXの現状と課題

では、自治体のDXはどの程度進んでいるのでしょうか。

自治体DXの現状

実は自治体のDXはほとんど進んでいないのが現状です。

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所が全国の自治体を対象に行った調査によると、約8割の自治体が「未着手」であると回答しています。

またDXを先行して進める自治体とその他の自治体を比較すると「トップのコミットメント」の成熟度に大きな乖離があり、その傾向は都道府県が総じて成熟度が高いのに比べて、基礎自治体は低いという結果が出ています。

やはりトップ層のビジョンや戦略が明確になっていないとDXを進めるのは困難なのかもしれません。

 

【参考】

自治体DX、8割が未着手、成熟度は民間企業の半分以下|デジタルトランスフォーメーション研究所のプレスリリース (prtimes.jp)

 

自治体DXの課題

自治体のDXを進めるためには、どのような課題が存在するのでしょうか。 総務省が作成した「情報通信白書」では、日本が世界と比べ、デジタル化が遅れている原因を6つ列挙しています。

※世界のデジタル競争力ランキングでは、日本は28位に位置する。(1位 アメリカ、2位 香港、8位 中国、12位 韓国)

参考:World Digital Competitiveness Rankings – IMD

  1. ICTへの投資は約8割が現行ビジネスの維持・運営に当てられている。
  2. ICTへの導入は外部企業に依存するため、組織にノウハウ・スキルがたまらない
  3. ICT人材が不足している
  4. 高度経済成長期に「電子立国」と呼ばれていたことから、その後改善の余地がない
  5. デジタル化への不安感・抵抗感
  6. デジタルリテラシーが十分ではない

 

以上の項目を簡単に整理すると、世界と比べ日本のデジタル化が遅れているのは、

①デジタル人材が不足している、②過去の成功やデジタル化への不安から新たな取り組みに踏み出せていないためと言えるでしょう。

特に自治体においては、デジタル人材が不足している他、現行のアナログ的な業務プロセスが横行しているため、この課題が顕著に表れています。

 

自治体のDXを推進するためには?

では、自治体のDXを推進するためにはどのような施策が必要なのでしょうか。 総務省は「自治体DX推進手順書」を作成し、DXの取組実現までをステップ0~ステップ3までの4段階と示しています。

(総務省「自治体DX推進手順書概要」より弊社作成)

ステップ0~ステップ3まで具体例を挙げながら、分かりやすく解説します。

 

ステップ0 DXの認識共有・機運醸成

ステップ0では「そもそもDXとは何なのか?」という認識をトップ層から一般職員に至るまで共有し、根付かせる必要があります。

またDXについて理解するだけでなく、その必要性や効果を深く理解することで、DXのビジョンや戦略が立てやすくなります。 何よりトップ層がDXを理解し、DX実現に向けた主体的なリーダーシップを取ることが重要です。

 

主な事例

総務省は、DX推進手順書と共に自治体における事例集を作成しています。 事例集によるとステップ0では、

  • 基本方針の策定に向けた民間のIT企業や大学等を含めた意見交換会の実施(福島県)
  • 若手職員を中心としたDX推進プロジェクトチームを発足し、情報収集やアイディア・手法検討の実行(福島県)
  • DX担当課だけでなく、各課から係長級の職員を「DX推進員」として選任(栃木県)
  • 市長自らがDXに向けた意気込みを表明し、実現に向けた戦略を策定(大阪府)

といった施策が取り上げられています。

若手職員に一任する他、企業や大学などの自治体関係者以外の意見を取り入れる、一部門・一課だけに任せないなどの取り組みが見られています。


ステップ1 全体方針の決定

次は、DX実現までのビジョンや実際の工程表を作成するなどの「全体方針」を決定します。

各自治体の規模や既存の仕組み、それによって実現したい目的も異なるため、他の自治体で成功した事例をそのまま取り入れるのではなく、自身の地域の実情に合わせた方針を策定することが必要です。

総務省の「自治体DX推進概要手順書」では、以下の工程表が参考として作成されています。


 出典:総務省「自治体DX推進手順書概要」より


主な事例

ステップ1における施策では以下のような事例があります。

  • 押印の廃止、オンラインでの子育て支援、Web会議システムの活用など、「できることはすぐに実行する」という考えの元、デジタル化を推進。その際、DX推進計画では、DXを「単なる新しいデジタル技術の導入ではなく、制度や政策、組織の在り方等を新技術に合わせて変革し、地域課題の解決や社会経済活動の発展を促すこと」と定義。(仙台市)
  • 市の存在意義、実現したい未来、組織の共通の価値観を明示したDX推進計画を策定(群馬県)
  • ICT総合戦略の計画を作りっぱなしで終わるのではなく、PDCAサイクルを回して見直しを行う(神奈川県)

このステップでは、主にDX実現のための方針や考え方、価値観を土台として、どんな施策を実行するのかを明示した戦略計画が打ち出されています。

また、単に現状をデジタル技術に置き換えるのではなく、最終的には利用者が「すぐに」 「簡単に」「便利に」使えるよう、サービスデザイン思考を導入する自治体も見られています。

 

ステップ2 推進体制の整備

DXに対する深い理解と認識、DX実現のための計画とその工程表が完成したら、「誰」が進めていくかという段階に入ります。

手順書では、DX推進担当部門を設置し、各部門と緊密に連携する体制を構築することとデジタル人材の育成に焦点が当てられています。

とはいえ、組織内に十分な能力やスキル、経験を持つ職員がいない場合は、外部の人材の活用も検討する必要があります。

 

主な事例

ステップ2では、主に「組織体制の整備」「人材育成」、「人材確保」の3つを軸にした事例が取り上げられています。

【組織体制の整備】

  • 市長を本部長とする「DX推進本部」を設置(高知県)
  • 企画担当課や情報政策担当課にDX推進担当を設置(山形県)
  • DXの取り組み意識の高い部署で実行可能な取り組みに着手し、結果を他部署に共有(熊本県)

【自治体職員の育成】

  • スマート漁業、スマート農業を進める市町村での若手職員を対象としたフィールドワーク(三重県)
  • 地域情報化アドバイザーを活用したワークショップ型研修の実地(静岡県)
  • 大学と連携し、職員は講義形式の動画を通じて受講する(北海道)
  • 自治体CDO経験者に講師を依頼し、トップセミナーを開催(栃木県)

※地域情報化アドバイザー:情報通信技術やデータ活用を通じた地域課題解決に精通した専門家。総務省によって認定される。

※CDO(最高デジタル責任者):自治体のDX化を推進する統括責任者

【人材確保】

  • 市町村に対するアドバイスやコーディネートを行うICTアドバイザーの派遣事業の実施(宮城県・福島県・静岡県)
  • 新卒採用、中途採用と共に試験区分に「デジタル」職を設置(神奈川県)
  • 連携協定締結企業であるNTT西日本の社員を一定期間受け入れ(島根県)

参考:総務省「自治体DX推進手順書参考事例集

DX推進のために、新たな部門を開設することや外部の人材を活用する動きが見られます。

 

ステップ3 デジタル技術を活用した業務改善

ステップ3では、いよいよDXに向けた取り組みを計画的に実行していきます。

その際、「PDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:確認、Act:改善)」や「OODA(Observe:観察・情報収集、Orient:状況・方向性判断、Decide:意思決定、Act:行動・実行)」などのフレークワークを活用することが推奨されています。

 

主な事例

ステップ3の事例では、「デジタル技術を活用した業務改善」「行政手続のオンライン化」「デジタルデバイド対策」が挙げられています。

【デジタル技術を活用した業務改善】

  • 電子決済システム導入によるペーパーレス化の推進(愛知県)
  • プレミアム商品券の電子化(神奈川県)
  • 出勤簿廃止によるペーパーレス化とテレワーク推進(京都府)

【行政手続のオンライン化】

  • 申請書等を電子データで作成し、オンライン申請が可能となる汎用電子申請システムの試験運用(滋賀県)
  • 各種証明書をオンラインで交付請求できる電子申請サービスの開始(東京都)
  • 学童保育関係手続のオンライン化(広島県)

【デジタルデバイド(情報格差)対策】

  • 高齢者や障害者にiPadの使い方を教える地域人財の育成(青森県)
  • デジタルに不慣れな高齢者に対し、同じ目線から相談や説明に応じる同世代のサポーター「高齢者デジタルサポーター」の登録(愛知県)

参考:総務省「自治体DX推進手順書参考事例集

自治体内では主にペーパーレス化、住民への行政サービスでは申請プロセス等のオンライ ン化、デジタルデバイド対策では主に高齢者に向けた講座や相談事業が見られています。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。ここではDXとは何かから始まり、自治体DXの現状と課題を整理しました。

また、総務省の作成する「自治体DX推進手順書概要」を参考に、DX実現までの段階を具体例と共に紹介しました。

今回事例で紹介したデジタル化の活用は、DX実現の一部に過ぎません。

行政手続きや組織の業務改善などの平時のDX実現は勿論、新型コロナウィルスの拡大や自然災害の増加に伴った緊急時のDXを推進することで住民の安全・安心を守ることにも繋がります。

 

終わりに

弊社は、自治体のDX実現による住民の利便性向上を応援しています。

弊社は、AI顔認証システムを利用したシステム開発を得意としています。例えば、防災分野では、避難所運営の業務負担を95%削減する「避難所運営支援システム」を提案しています。

「避難所運営支援システム」は検温と同時に避難者にQRコード付きの整理券を発券し、避難者自身がタブレットなどを用いて避難者情報を入力することで、避難者の受付をスムーズに実施するシステムです。

避難所受付の簡略化、避難者の体調管理、救援物資の配給などを避難所のデジタル化によってサポートし、避難所運営の業務を効率化することで円滑な運営を実現することが可能です。

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