防災

『防災のDX』を考える。災害時に必要なデジタル化と具体的な事例を紹介。

阪神淡路大震災、東日本大震災を経験した日本は、住民1人1人の防災意識が高まっています。全国の自治体でも同じ悲劇を繰り返さないよう、防災対策に努めています。

防災意識の高まりと同時によく聞く言葉が「防災DX」。聞いたことはあるけど、それが何かと聞かれると答えるのは簡単ではありません。

  • 防災DXとは
  • 防災のデジタル化が必要な災害状況
  • 防災のデジタル化の具体的な事例

について紹介します。

 

DXとは何か?

防災のDXを考える前に、そもそも「DX」とはどのような意味を持つのでしょうか。DXの定義について紹介します。

 

DXの定義

DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)のことを指します。DXは2004年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。

※ちなみに、DTではなくDXと表現するのは、Transformationの「Trans-」には“交差する”という意味があり、“X”と表現するのはそんなイメージも持ち合わされています。

彼は論文の中で、このような言葉を残しています。

“The digital transformation can be understood as the change that the digital technology causes or influences in all aspects of humans life.”

引用:Erik Stolterman「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」より

直訳すると、「デジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術が人間の生活のあらゆる側面に影響を与える変化として理解されるものである」。

直訳しただけだと、DXは「デジタル技術が人間の生活に与える影響の変化」であるように思われます。

日本でも経済産業省がDXを以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土 を変革し、競争上の優位性を確立すること」

引用:経済産業省「DX推進指標」より

簡単に言うと、「デジタル技術を活用して、製品・サービスそのものや企業組織を変革すること」をDXと言い、それによって競争優位を確立することと定義しています。

何だか分かったような分からないような… まだイメージが湧きません。

ここで注意しなければならないのが、DXとデジタル化(IT化)は異なるということです。どちらの定義でも「デジタル技術」という言葉が使用されていますが、デジタル技術を活用することがDXになるというわけではありません。

例えば、経済産業省の定義の中にある企業のデジタル化というと、ソフトウェアやロボットなどを導入して、業務効率化や省人化、コスト削減を実現するイメージがあると思います。

DXは、このようなデジタル技術を連携させて、今までは特定の部門や分野だけで最適化されていたシステムや制度を全体に適用化させることを指します。

つまり、DXとデジタル化は同じ意味でも同列に位置する概念でもありません。DXはデジタル化した先にある概念だからです。

上の図を言葉で表すと、DXは「あらゆる場面でデジタル化が進み、利用者(住民や従業員など)側から見て、その違いを意識することなく利用できるようになること」です。

しかし、DXといっても対象が変わることで上記の意味付けも変わります。例えば、エリック・ストルタートマンの提唱したDXは、社会全体を対象としていますが、経済産業省は日本の企業を対象とした定義づけをしています。

例えば、社会全体を対象とするならば、IT技術が様々な分野に浸透することによって経済や人々の暮らしが良くなることがDXの目的になります。

企業を対象とするならば、ある一部門だけで採用されていたシステムを他の部門にも適用することで、社内全体の業務プロセスが効率化し、その結果、新たな知見や価値が生まれることがDXの目的になります。

例えばの話ですので、実際にDXを考える際には、デジタル技術を活用することによって何を実現させたいかが重要になります。

では、防災のDXとは何を対象にどんなことを実現することなのかを一緒に考えてみましょう。

 

防災のDXを考える。

DXといっても対象と実現したい目的によって意味合いが変わります。そのため、「防災」の目的と対象を明確に定めることが出来なければ、防災のDXを実現することは難しいでしょう。

昨今では、防災情報システムやアプリを活用した防災ソリューションなどの「防災のデジタル化」が進んでいます。しかし、それはDXのための手段であり目的ではありません。

これはあくまで一解釈に過ぎませんが、あらゆる防災対策の目的は「人の命を守ること」に他ならないと考えます。

阪神淡路大震災や東日本大震災では多くの方の命が失われました。

この経験から「もっと早く避難できていたら…」「もっと早く救助に迎えていたら…」「もっと情報共有がスムーズにできていたら…」など、挙げればきりがない数の後悔と教訓が生まれたはずです。

この後悔を繰り返さず、学んだ教訓を活かすためにも、より迅速で効率的な対応を可能とする「防災のデジタル化」が各自治体で進められているはずです。

そして、防災のデジタル化が進み、災害対応の効率化や高度化がこれ以上は進まない・限界値に達したと判断された時に、初めて防災のDXが達成されたと言ってもいいでしょう。

しかし、技術の進歩が終わらない限り、効率化や高度化は際限なく続くため、防災のDXも終わることはないと考えます。

とはいえ、防災のDXを目指し、様々な企業や自治体がデジタル化を進めています。 次に、どのような場面で防災のデジタル化が進められているのかを紹介します。

 

防災のデジタル化が役立つ場面

2020年の内閣府における「『防災×テクノロジー』タスクフォースのとりまとめについて」によれば、

大規模災害時には、膨大な災害対応業務が発生するが、自治体等の人的資源には限界があり、迅速・的確な対応のためには、業務の効率化、省力化、それらに資する標準化が重要。

引用:内閣府「『防災×テクノロジー』タスクフォースのとりまとめについて」

と示しています。

ここで挙げられた「災害対応業務」には、例えば

  • 災害リスク、避難情報の提供
  • 被害状況の把握
  • 被災者支援制度のデジタル化
  • 共助による避難施設の確保
  • 通信の冗長化

などが挙げられています。これらの業務の効率化を進めることでどのような効果があるのか、具体例と共に紹介します。

災害リスク・避難情報の提供

災害リスク・避難情報の提供が今までより効率的になることで、被災者がいち早く避難する必要性に気づくことや適切な避難が可能になります。

これにより、「逃げ遅れる」という最悪の事態を免れることができます。

被災者の中には、自分が危険な状態でも「防波堤があるから大丈夫」「耐震設備が整っているから安心だ」「自分は安全だ」という慢心からその場に留まろうとする方もいます。

そんな人にも、客観的にその場所が危険であることをいち早く伝えることができるでしょう。

 

「防災チャットボット『SOCDA(ソクダ)』」

※画像はイメージです

災害時の情報提供・共有を効率化するソリューションとして、防災チャットボット「SOCDA(ソクダ)」があります。

防災科学技術研究所、情報通信研究機構、株式会社ウェザーニュースが、LINE株式会社の協力の元、開発を進めているソリューションです。

「SOCDA」は住民の避難と災害対応機関の意識決定を支援する防災チャットボットです。

SOCDAには主に2つの機能があります。1つは「情報投稿機能」です。

住民は、LINE上で被害状況をテキストや位置情報、写真を投稿することができます。これにより災害対応機関は、住民から得られた詳細な情報を元に、的確で迅速な対応を進めることができます。

もう一つは、「避難支援機能」です。

ユーザーは基本情報(現在地や生活場所、災害時予定避難先、避難の自由度、避難予定の警戒レベル)を設定することで、被災時に自身の状況に合った避難情報を受け取ることができます。例えば、災害時どこに避難すれば良いかをチャットボットに伝えると、AI技術を駆使して瞬時に回答してくれます。

また災害対応機関は、設定された情報からユーザーがどこに避難しようとしているのかを事前に知ることができる他、災害時のリアルタイムでも把握できます。また、避難者の問い合わせ対応への負担を軽減できるため、他の業務に従事することができます。

 

【参考】

AI防災協議会

2021-02-18press.pdf (caidr.jp)

 

被害状況の把握、通信の冗長化

災害時に重要となるのが「情報」です。情報がなければ、どれだけリソースがあっても支援することはできません。

被害状況を速やかに把握することで、いち早くレスキュー隊を向かわせたり、どこに何をどれくらい支援すればいいのかが分かります。

災害時には、地上の通信網が途絶えてしまい、連絡手段がなくなる可能性もあります。そのためには、様々な災害を予測し、どんな災害が起こった場合でも確実に連絡できる手段が必要です。

 

「人工衛星を活用した安否確認サービス『Q-ANPI』」

※画像はイメージです。

災害の影響を受けない人工衛星を経由すれば通信手段を確保することができます。

「Q-ANPI」は避難者自身が個人の携帯端末で安否情報(電話番号)を登録し、避難所管理者が避難者の安否情報を管理PCから衛生システムに送ることができます。

衛生システムに送られた情報は、避難者の近親者がインターネットを介して避難者の安否確認を行うことや防災機関が各避難所の情報(必要な支援情報や避難者数など)を得ることに活用できます。

 

【参考】

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局「衛星安否確認サービス概要及び防災機能拡張に伴う実証・調査事業の概要」

shiryo01_gaiyo.pdf (cao.go.jp)

 

被災者支援制度のデジタル化

被災に遭われた方を支援する制度を整えることも「人の命を救うこと」になります。例えば、被災したことで生活に支障が出るほどの後遺症が残った方や住まいを失くした方、保護者を失った子ども達は路頭に迷うことになります。

そんな時、支援制度があるにも関わらず、支援制度があることを知らない・申請方法が複雑で難しい・気軽に相談できないなどの問題があると、支援を受けたい人が満足に受けられないという状況が起きるかもしれません。

そのため、被災者が利用しやすいよう支援制度のデジタル化を進めることも必要になります。

 

共助による避難所施設の確保

共助とは言葉の通り、共に助け合うことを指します。他に自助・公助という言葉があります。

自助は簡単に言うと「自分や家族の命を守るために備えておくこと」、公助は「行政によって行われる防災活動」を指します。

共助は自助と公助の間にあり、自分だけを優先すること、行例の支援のみに頼ることなく、地域一体となって助け合いましょうという意味を持ちます。

災害時には、避難所には行かずに車中泊をする方や避難所生活をしていても救援物資が届かず食料不足になるなどの問題が挙げられます。これにより、エコノミークラス症候群や栄養失調などの健康問題に発展し、三次被害を引き起こす原因となります。

そのような時、被災していない地域からの支援を有効に活用できれば、被害を最小限にとどめることができます。

内閣府ではシェアリングエコノミーを活用することを進めています。シェアリングエコノミーとは、インターネット上のプラットフォームを通じてホストが所有しているモノや場所、スキルをユーザーにシェアすることを指します。

シェアリングエコノミーで代表的なサービスには、民泊やオンライン医療相談などがあります。

 

徳島の『シームレス民泊』

平日は宿泊施設として営業し、災害時には避難所になる「シームレス宿泊」を進めているのが徳島県です。

シームレス民泊では、災害発生時、地位の避難所に避難した住民の中からから、保健所や医師などの必要性が高いと判断された住民がシームレス民泊施設に振り分けられます。 避難者の宿泊代は行政が負担するため、避難者は無料で安全な施設に宿泊することができます。

 

【参考】

徳島県「シームレス民泊」の取り組み

災害時は避難所になる「シームレス民泊」に、地産地消の「マクロビ民泊」。徳島に学ぶ民泊と地方創生 | コラム | Livhub | サステナブルな旅や体験、ワーケーションなど「これからのLive」に出会えるメディア

 

まとめ

ここまで防災のDXとは何かと、防災におけるデジタル化の具体的な事例を紹介してきました。

将来的には、今回紹介したようなデジタル化が普及し、それぞれのソリューションが連携することで防災のDXに繋がっていきます。

冒頭で紹介したように、防災のDXを進める際には対象と目的を明確にすることが大切です。

 

終わりに

災害状況に応じた様々な防災のデジタル化の事例を紹介しました。

これまで紹介してきた状況の他にもう一つ、防災の「デジタル化」を行うべき災害状況があります。それが「感染対策を考慮した避難所運営」です。

 

 

感染対策を考慮した避難所運営

災害時には、住民が同じ避難所に一斉に非難することで混雑することが予想されます。昨今の新型コロナウィルス感染症の拡大に伴って、住民自身も避難所運営の感染対策に注目しています。

災害時の避難所受付では、避難者が滞留し密にならないように「受付スピード」が大切です。避難者が滞留し密になることで、感染リスクが高まるためです。

しかし、現状の避難所受付は、検温や感染者と非感染者の振り分け、紙ベースによる避難者情報の管理など、やるべき業務が多いことは勿論、アナログな業務に頼っている状態です。

これにより、先ほど挙げた避難者が受付に滞留してしまうという問題は勿論、避難者情報を災害対策機関に共有するのが遅れる他、避難者自身のストレスが蓄積するなども考えられます。

 

避難所運営支援システム

株式会社フォルテでは、避難所運営を支援する「避難所運営支援システム」を提案しています。

「避難所運営支援システム」は検温と同時に避難者にQRコード付きの整理券を発券し、避難者自身がタブレットなどを用いて避難者情報を入力することで、避難者の受付をスムーズに実施するシステムです。

避難所受付の簡略化、避難者の体調管理、救援物資の配給などを避難所のデジタル化によってサポートし、避難所運営の業務を効率化することで円滑な運営を実現することが可能です。

このシステムを導入することで、避難所受付に係る業務時間を95%削減することができ、避難所運営スタッフは削減した時間を他の業務に回すことが可能になります。

 

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